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無題

なりやさんのお誕生日に超特急で書いた短編です。
龍+瞬+沖。





ある穏やかな午後。
突然、二階から「ドタン、パリン」という大きな音が響き渡り、瞬はうんざりと頭を抱えた。

今、二階にいるのは坂本龍馬と沖田総司の二人。
一人に飽きた龍馬が、なにやら部屋を見たいといってウロウロし、うたた寝していた沖田までも連れ出した。

それが、僅か十分前のことである。
たかが十分。
なぜ、たったそれだけの時間を大人しく過ごせないのだろうか。
良い歳をしているくせに、坂本龍馬という男には落ち着きというものが全くない。
黙ってゆきの帰りを待つこともできず、また帰ってきたらきたで振り切れんばかりに喜ぶのだ。
階段をのぼり、ドアが開いていた部屋を覗く。
その惨状をみて、瞬は静かに問いただした。
「――何をしているのか、説明を」
「ええっと、これはだな」
龍馬が返答に詰まる。
総司の手には刀が握られ、龍馬は奇妙な姿勢で床に転がっていた。
そしてその隣には、割れたグラスが四散している。
なにがあったかを想像して、瞬は思わず米神を押さえる。
固まった瞬と龍馬を見比べて、沖田が何食わぬ顔で言い放った。
「つい、遊んでしまって」
「……」
眩暈がした。
暴れる、の間違いではないだろうか。
「面白かったですよ。この方は中々斬れないので、楽しいです」
「お、面白いって、そりゃちょっと酷いだろう!こっちは危うく殺されかけてだな」
良い大人が室内で何を騒いでいるのかと思えば、これだ。床に落ちたガラスを拾い上げると、大きくため息をついた。
「瞬、悪かった! このとおりだ!」
「俺に謝るな、それはゆきのグラスだ」
無残に砕け散ったグラスは、ゆきと都が色違いで揃えたものだ。底が桃色の方がゆきのグラスで、都は確か濃い青紫だったと思う。
揃いで気に入っていたものだから、彼女が知れば悲しむだろう。
悲しむだろうけれど、彼女のことだから笑って二人を許すはずだ。
その姿を想像したのか、流石の二人も項垂れる。
「……そうだったのですか、それは申し訳ないことをしました」
「な、なんてこった! お嬢に謝らんと……!」
意気消沈する二人を見ていると、なんとなく怒る気もなくなってくる。
それよりも砕けた破片を回収するのが先だろう。
「お嬢に悪いことしちまったなあ」
「後で謝りましょう」
「……とりあえず、その物騒なものを仕舞え、片付ける」
そうしてようやく、沖田が携えていた刀を仕舞った。それを確認すると、瞬は部屋を出ようとする。
その前に、と振り返る。
「箒を取ってきます。くれぐれも、余計なものは触らないように」


残された龍馬はしゃがんで、バラバラになった破片を集め始めた。それを見て、沖田も破片を拾いはじめる。
沖田はそっと龍馬を伺った。しゅんと項垂れて、申し訳なさそうに欠片を拾っている。
「瞬の奴、怒ってるな」
「怒ってますね」
「まだ総司がいたから良かったようなもんだ。俺だけだったら、今頃こっ酷く叱られていたな」
「そういうものなんですか」
沖田の相槌に、龍馬は大きく頷く。
「そうだ。なにせ瞬は、俺には特に容赦がないからな」
不思議なことに、そう言った龍馬は何故だか嬉しそうでもあった。
容赦がないと愚痴りながらも、本心ではそう嫌がっているわけではないのだろう。
どこまでも御人好しな方だと、他人事のように思う。近藤さんの御人好しとは、また種類が違うのだ。
沖田の知る坂本龍馬は、それほど悪い男ではない。
悪いだとか、良いだとかを考えたこともなかったし、考える必要性も、考える意義も解らなかったから最近になって気付いたことだ。
そういった判断は、自分がする必要もないと決めつけている。
しかしこの人には、そういう沖田のような考えは微塵もないのだろう。
龍馬は常に、自分の目で見て、自分の考えの上で動いている。
「しっかし、お嬢の世界の硝子は綺麗だなあ。ぴっかぴかだ。俺もいくつかの細工は見たことがあるが、こんなに透明な硝子は初めてだ」
純粋な好奇心で、色々なものを受け入れていく懐の大きさは、自分にはないからこそ凄いと思った。
二人で黙々と硝子を拾う。
硝子を、一つ。二つ。散らばったものを重ねて纏めていく。
「……って、おいおい、その指!」
突然龍馬が声を荒げる。
視線を追うように自分の手を見ると、指先がぷつりと切れていた。
「指……? ああ、切れてしまいましたね」
右手の人差し指から、裂けるようにして肌から血が垂れていた。なんてこともない、ただの切り傷だ。
しかし、龍馬は立ち上がると、ドアから叫んで瞬を呼んだ。
「瞬!」
「……今度は何だ」
階段下から掃除用具を持ってきて上がろうとしていた瞬が、鬱陶しそうに顔をあげた。
「総司の指が切れたんだ、ちょっくら看てやってくれ!」
「次から次へと……」
部屋の向こうから、瞬の呆れた声が聞こえた。
廊下で叫んでいた龍馬が戻ってくると、その手には箒と雑巾が握られていて、あまりにも所帯じみた姿に沖田はまじまじとその姿を眺めてしまう。
どうやら瞬は薬かなにかを取りに行ったらしい。
龍馬は箒で硝子を集め始めたので、完全に断るタイミングを逃していた。
「大丈夫ですよ、これくらい。放っておいても治ります」
慌てて言い足すが、龍馬は納得しないように肩をすくめた。
「そうは言ったってなあ、早く治すに越したことはないだろう?」
「まぁ、それはそうですが」
「せっかく、きちんと手当のできる環境と時間が揃ってるんだ。気兼ねなく頼ったらいいさ」
「……この場合、頼られるのは俺だが」
 そう言いながら、瞬が救急の用具をもって現れた。
「瞬に任せておけば、問題なしってこった!」

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