お正月櫂ミサ!勢いだけで書きました。
AS編もとっても楽しませていただきましたが、
もっと櫂ミサが絡んでもいいとか思っちゃうのはもう習性みないな……すべては虚無のせい……
でも妄想たくましく、今年一年も楽しく過ごせました!
2012年、ありがとうございました!
「ええ!? お兄さん居ないんですか!?」
年明け初めての開店日。挨拶も早々に、カムイの悲痛な叫び声が響き渡った。
「週明けまで帰省中だって」
「そ、そんな……エミさんとの初詣が……」
がっくりと項垂れるカムイに、ミサキは小さくため息をこぼす。せめて約束くらい取り付けろと思ったが、ここに来れば会えると信じて疑っていなかったらしい。彼の淡い期待は、無残にも砕け散る。
「なんだったら俺達と行くか?」
「そうそう、男だけの初詣ってのもオツなもんだぜ」
そう言ってカムイの肩をたたいたのは、三和と井崎だ。その奥には櫂もいる。
まだ帰省中の奴もいるけれど、ほぼいつも通りのメンバーが集まっていた。見慣れない子もいるが、大人の親戚づきあいで暇を持て余した帰省中の子達だろう。
家が接客業ということもあり、ミサキの正月は慌ただしい。さすがに年末は臨時休業をいただいたものの、子どもにお年玉という軍資金がはいるこの時期を逃してはならぬと、カードキャピタルは早々に通常営業に戻っていた。少ない休日ですら取引先への挨拶回り、年賀状の印刷とゆっくり過ごす暇もなく。師も走り回る師走も過ぎ、いつのまにか年があけ営業はじめ。ゆっくりと冬休みを満喫する暇もない。
小さく息をつくミサキを余所に、三和は櫂にも声をかけていた。
「たまには付き合えよ」
「何が楽しくてお前らと……」
うんざりと眉を潜める櫂だが、すっかり慣れた様子で三和は華麗にスルー。そうして矛先を変えたように、くるりと振り返ってミサキに近寄る。
「ねーちゃんもさ、初詣どう?」
「みてのとおり、バイト中」
「シンさんは?いねえの?」
「……今は外回りだけど」
「よーし、じゃあシンさんが戻ってきたら行くか~!」
でも、と言いかけた言葉は小さく掻き消えて、三和の高らかな宣言で今日の予定は決定してしまった。井崎もカムイも、両手をかかげて喜んでいる。
「ねーちゃんが来るんだから櫂も来いよ!」
「どういう理屈だ!」
怒鳴りあげる櫂には目もくれず、男子三人はじゃあどこに行こう、なにをしようとすっかり盛り上がっている。男ばかりの初詣、流石にちょっと、まあ思うところがなくもないけれど。
鬱陶しそうに眉を潜める櫂をみて、ミサキはふと思い立った。そういえば、彼にはまだ年始のあいさつをしていない。近寄ると、訝しげに片目を開かれる。
「櫂、あけましておめでとう」
「……おめでとう」
渋々といった様子で、返事をされた。それでも、出会ったばかりの彼なら目を細めたままだんまりだって在り得たのだから、かなり距離は縮まったんじゃないだろうか。
すうっと息を吸い込んで、ミサキは櫂にいたずらっぽく笑いかけた。
「今年はよろしくしてくれる?」
「……は?」
「去年は、よろしくされるほど話した訳じゃないから」
かなり距離は縮まった。それでも、まだこの距離。友達にしても、まだ遠い。三和が簡単に飛び越えている薄い壁を、あたしはまだ越えられていない。決して親密になりたい訳じゃないけれど、もっと話したかったと思った。もっと、話せば分かることがあったような気がするのだ。
カムイとも、アイチとも。仲間として打ち解けられたと自負している。世界へ飛び出せたのは、彼等といたからで、年の差はあっても確かに仲間意識だって生まれている。三和にも、森川や井崎にも。レイジやエイジ、エミちゃん。みんな、ただ店員として座っているだけじゃ出会えなかった仲間だ。
なのに、とミサキは思う。年始のあいさつだって遅れる程度には、縮まらないこの距離。越えられない壁。
今年こそ、彼とも。
ひっそりと息のとまったショップの片隅。苦笑してカウンターに戻ろうとしたところで、ふいに呼びとめられた。
「戸倉」
振り返る。
そこには、深碧の瞳を湛えた櫂が座っていた。そこにあるように、まるでいつものように座っていて。口角をあげて、小さく微笑む。ひそやかに、ミサキにしか聞こえない声で――
「今年こそ、な」
囁いた。
PR