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フォルダからサルベージ。双子可愛いです。
いつだって、行動理念は彼女が基準で、彼女が基本だった。
15年間。伊達に毎日一緒に過ごしてきたわけじゃない。
疑うまでもない。だって、それが普通だったんだ。龍亞は龍可を守りたくて、いつも、いつも。彼女が泣いていたら、なんとか喜ばせようとした。
龍亞にとって、それは当然のこと。
唯一の妹を守りたくて、ずっと必死だった。
ただ、それが永遠って訳にはいかないことも、なんとなくだけれど解っていたことなんだ。
「龍可ッ! 遊星んとこ行こうぜ!」
終業のベルと同時に、龍亞は叫んだ。
今日は遊星の所に集まって、皆で鍋パーティをやることになっている。遊星はDホイールのメンテの仕事が順調で、クロウの配達サービスもここ暫くは忙しそうだった。相変わらずのジャックと、大学生になったアキ姉ちゃん。全員が揃うのは実は久しぶりだった。
それが楽しみで、昼食もいつもより少なめ。と言っても、育ち盛りの男子中学生の少なめなんて、ご飯のお変わりが3から2杯になったくらいだけれど。
俺だって、もうすぐ高校生になる。
背だって伸びた。この調子だと、クロウの身長を追い抜かすのも、多分そう遠くないと思う。
振り返って、後ろの席の龍可に向き直る。てっきり、「龍亞、もっと静かにしてよ」、なんて小言を言われるかと思いきや、予想に反して龍可の顔色は悪かった。
「あ……ごめん、龍亞。ちょっと用事があって……すぐ終わると思うんだけど」
そう言って、龍可は少し困ったように笑った。
双子だからかな。顔をみるだけで――いや、みなくても解る。
俺に、気を使ってる。
直感的に解った。
友達には空気読めないって言われるけど、龍可のことなら別だ。助けてと言われたら助ける。だから、龍可が待っててと言うなら待つ。
言葉にしなくたって、通じてしまう。それが良いのか悪いのか、俺にはよく解らないけれど。
「……そか、解った!すぐ終わるなら教室で待ってる。今日は遊星達と鍋パだからな、遅くなんなよ」
「うん。ごめんね。すぐ戻るから、ちょっと行ってくるね」
そう言って、龍可は鞄を俺に預けて教室を出た。昔と違って、下ろして伸ばし始めた髪がふわりと翻った。髪を伸ばし始めたのは、アキに憧れてのことなんだろう。言わないけど。
「…………あーあ」
最近、こうして龍可が出て行くのが割と多い。なんとなく面白くなくて、ため息をつく。
「そう拗ねんなって、龍亞」
「なんだよてっぺー」
「龍可ちゃん、また告白されるのかな」
「かもな」
「……もうさ。お前、いい加減妹離れしたら?もうすぐ高等部にあがるんだし、時期じゃない?そういう話しあったって、別に可笑しくないだろ」
「……うん」
「駄目だ、こりゃ。僕も帰るよ」
そう言って、友人が教室を出て行く。しばらくすると、残っているのは龍亞だけになっていた。皆、部活にでも行ったのだろう。
俺の鞄の隣には、龍可の鞄が置いてある。鞄についてる色違いのキーホルダーは、以前、遊星がゲーセンでとってくれたもの。
――なんとなく、先に帰りたいなと思った。
龍可は可愛い。
だから、そういう話しがあるのは頭では解ってる。それに俺がなにかを言う権利も、ましてや立場もないことだって理解しているつもりだ。でも、気持ちが追いついてない。
小さい頃から、龍可のヒーローは俺で、俺のお姫様は龍可だった。
そこに違和感を感じたのは、初等部の上級生になったあたりだったろうか。
クラスメートの男子が、俺に龍可の好みのタイプを聞いてきた。あの時、俺はいつもの調子で何かを答えたんだけど、正直なんて言ったか覚えてない。その時ようやく、俺は龍可がそういう対象として見られていたことを知ったのだ。
毎日手を繋いでた。
俺の右手はいつだって龍可を引っ張って守るためにあったのに、気が付けば俺達の手には隙間が出来ていた。もう随分と手を繋いでいない。
(――遊星に会いたいな)
少なくとも、5D'sの中で龍可は龍亞のものになる。
安心するのは大人の中だけ。それくらい、手の距離は遠くなっていたのだ。友達の中では、龍可を独占することができなくなっていたから。
永遠なんて不確かな言葉に縋り付いて、でも意識に反して身体は変わって、関係も変化していった。変化に焦っているのは俺だけか、それとも周りもなのかな。どうなんだろう。
――龍可も、こんな風に俺を待ってたのだろうか。
外では、サッカーかなにかをしている。野球のバッティングの音も聞こえてきた。
夕日も綺麗なのに、なんでだろう、凄く味気ない。
龍可に会いたい。今ものすごくお前に会いたい。
「龍亞、お待たせ。帰ろ……って、龍亞?どうしたの?」
「…………っ」
龍可が頬に手を伸ばす。そしてようやく、俺が涙を流してることに気が付いた。涙といっても、少し濡れただけだけど。
慌ててそれを腕で拭って、龍可に向き合う。
「龍亞?」
「ごめん大丈夫。埃が入っただけだからさ。用事は済んだ?」
「……うん。待たせてごめんね」
龍可はそれ以上、何も聞かなかった。
衝動的に、俺は龍可の左手をとった。触れたのはいつぶりだろう。
手を絡める。
龍可は何も言わない。
「腕、ほっそいなぁ」
「……龍亞がおっきくなったんだよ。ほら背も」
「いつの間に、こんなに変わっちゃったんだろな。昔は、なんだって一緒だったのに」
「龍亞は男の子だもん」
「龍可は女の子だしな」
その台詞が重なって、俺はなんとなく下を向く。
龍可はいつから女の子になったんだろう。
いや、龍可は俺だけの女の子だったのに、もう誰からみても綺麗な女性だ。
俺が一番だった。いつだって、俺が龍可の一番だったのに。全部過去形になっている。
……ああ、また涙が溢れそう。
「……帰ろっか、龍亞。皆が待ってる」
「うん」
俺達はそのまま手を取り合って、教室を出る。
玄関まで誰にも会わなかった。下駄箱で、靴を履くために自然と手が離れた。
少し勿体なかったな、なんて思いながらスニーカーの紐をしめる。立て結びになったのを、龍可がしゃがんで結び直してくれた。それは、綺麗な蝶々結びだった。
龍可は俺に手を差し出したから、俺もその手を取った。手を繋いで帰るなんて、何年ぶりだろう。ああ、そうだ。小学生の時だった。
龍可が誰もいないのに誰かと喋っていたから、気持ち悪いとか、なんとかで苛められたことがある。詳しくは覚えてない。
その時、俺と龍可は別クラスで。
迎えに行った教室で泣いている龍可をみて、頭に血が昇って、なんか訳解んないこと叫んで龍可の手をとって逃げるように帰ったんだ。あれが最後。
あの時より、龍可の手は小さく柔らかくなっている。
「龍可は、付き合ったりしないの?」
「……え?」
「なんか、龍可かなり人気だしさ」
「龍亞だってモテてるよ」
「話しそらすなー」
龍可は少し困ったように笑った。
「好きな人とかいないし、そういうのはないよ」
「そっか」
「それに……」
何かを言いかけて、龍可は言葉を濁す。
「それに、なんだよ」
「やっぱりなんでもない」
「るかぁ」
ねだるように名前を呼ぶと、少し俯いて、まるで苦言をもらすような顔をした。
「……それに、龍亞以上に格好良い人なんていないだもん」
ああ、本当に。彼女の騎士が俺ならいいのに。なんで俺達は双子なんだろう。
彼女はこんなにも細くて、か弱いのに。
ずっと守るって約束したのはいつだったっけ。昔過ぎて、俺はもう覚えてないけれど。
「…………当たり前だろ、そんなこと」
龍可以上に守りたい人なんていない。これまでも、そしてこれからも。
いつだって、行動理念は彼女基準で彼女基本だ。
だから、疑ったりなんてしないんだけれど、それが永遠って訳にはいかないことも、なんとなくだけれど解っていたことなんだ。
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