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その一言のために巡り、巡る

サルベージ・スザルル





「スザク、今日の朝食は何だった。どうせあのゼリーか、固形バランス栄養食だろう?一般男子の一日に必要な平均エネルギーは知っているか?あの栄養食はあくまで栄養補助食であってだ、決してカロリー摂取が出来るわけじゃない。知っているだろ、一本100キロカロリー×四本でたった400キロカロリーだ。忙しいのも解るし睡眠がないのも仕方ないのかもしれないが、朝食はともかくとしても昼食くらい高カロリー高蛋白なものを摂れ。それとも高々100円程度のパンすら買えないほどブリタニアの給料は低いのか?そうだ今度給料明細を持ってこい。というか、どうせおまえの事だから明細棄ててるだろう。駄目だぞ気付かない内にロイドなら横領くらい素知らぬ顔でやってのけるからな。その点については兄上に口効きしてやっても良い。ええと、なんだ、ああそう、それで、とにかくもう少し自分の事を気にしろ。あああ、こうまで言わせておいてまたお前はそのゼリーに手を付ける!今はこれでも食べておけ、チョコレートは良い。山に遭難するにしてもこれほど手軽で素晴らしい非常食はないからな。ああ、糖分が足らないからお前の思考はいつも遅いんだ。思考の回転が一般市民に比べて遅いからお前の空気の読め無さ神経は発達したのか?7年前はどちらかと言うとデリカシーが欠如していたと俺は記憶しているが、スザク、何かあったのか。何が悪かったんだ?ブリタニアが日本を攻撃したのがいけなかったのか?いや確かに他国に軍事力をもって攻め入る事はいかに合理的とは言え、合法的とは言えないが。ユフィか?あのイカレ科学者か?それともシュナイゼル?スザク、もう少しお前は周りと他人と自分自身と俺!、とくに後者にウェイトを置いてだ!もっと気配りと気遣いをしろ!見てられない!て、お前なんでこの状況で終始笑顔なんだ見ていて腹が立つな!」
「ルルーシュ、」
「ああそうだよ俺は馬鹿だ!」
「別にそこまで言ってないけど……」
 まくしたてる言い草に疲れたのか、ルルーシュはぐっと詰まって顔を反らした。何もチョコレート程度に何を焦っているのか解らないが、ルルーシュからの差し入れなんて珍しいが故に素直に嬉しかった。
「まぁまぁ。確かにお腹は空いてるし、有り難く頂くよ」
 その言葉に落ち着きを取り戻したのか、拍子抜けしたようにルルーシュは小さく呟く。
「…なら良い」
「うん。ありがとう」
 ふと周りを見ればクラスメート全員がこちらを向いていた。慌てて背を向ける者4割、呆気に取られて身動き出来ない者4割、恥ずかしげもな く大口をあけてルルーシュとスザクを指差す者が2割、くらいだろうか。なんにせよ、クラスの全員がこちらを凝視している。まぁ、あの副会長がこんな風に暴走すれば、驚くのも無理はないかもしれない。
 いたたまれなくなって、スザクを見遣れば、彼は周りの空気に気付く事もなく手元の板チョコをパキン、と折ってルルーシュに差し出した。
「はいルルーシュ」
「い、いや、俺は良い」
 あげたチョコを渡した当人が食べていては本も子もないのだが、スザクは笑顔でルルーシュを見つめている。仕方なく、差し出されたチョコの半分を右手で折り口に運ぶ。
 口に含んだ瞬間、甘いカカオが広がった。珈琲がほしい、なんてぼんやりと考えながら、ルルーシュは購買のチョコレートを咀嚼する。
 周りも困惑しつつも落ち着いたのか、各々の机に戻っていく。
 そうしてチョコレートを齧りながら、反省と同時に深く項垂れ、机に忘れ去られていた弁当を取り出した。今日のメニューはミニハンバーグをメインにクロワッサン(さらにチョコレート)と、高カロリーなものをわざわざ選んで来たというのに。
「……そういえば、」
「ルルーシュ?」
 なんでこんな話になったんだ。本題から大きく逸れまくったせいで、ルルーシュは目的を忘れていた。すっかり忘れていた。まったく、失念していた。ああ馬鹿みたいだ、本当に馬鹿だ。
 少し躊躇ったが、鞄に入っている弁当箱を取り出して、スザクに勢いよく押し出した。
「これは?」
 なんでこんな事になったんだろう。他人に弁当を渡す動作ごときに何で俺は。
 
「お前の分だ」
 
 この一言のために。なんでこんな。
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