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思い煩い、想い患え

pixiv転載。

フォロワーのゆかさんのお誕生日に差し上げたものです。
1期の初期頃。設定が古くて申し訳ないです。。

 こういうタイプが、亭主関白というんだろうか。
 言葉が少なく、偉そうな態度で物を言う態度をみて、そんな取り留めのないことを考えている。ああいう上から目線の言動が気に入らないからカムイなんかは意地を張って突っかかっているんだろうし、まぁ確かに、気持ちはわからなくもないのだ。アイチは櫂を信奉するように尊敬しているから、櫂の態度や言い草は特に気にならないみたいだけれど、櫂トシキが人と接していく上で致命的欠陥があるのは間違いない事実だと思う。




 大会帰り、休憩がてら車を止めた。
 シンとアイチは休憩がてら降りていき、流石に疲れたのか、カムイも数分遅れで車を降りていく。櫂は素振りがないから、車内に残るんだろう。手持無沙汰になったミサキも、珈琲だけ買ってくるつもりで財布を取り出した。
 他の三人と違い、ミサキは道案内があるから道中に寝ることはできない。それに、カードキャピタルが代表という形で余所のお宅の小中学生を預かっているのだから責任もある。シンの話し相手をしながら、確実に送り届けるまで寝るつもりはなかった。そのためにも、珈琲が飲みたい。そう、熱いブラックコーヒーとか。
 ミサキが財布をもって車から降りようとしたところで、櫂が「戸倉」と呼びとめた。思わず振り返ると、
「ブレンド」
 という一言と共に、突然硬貨が投げて寄越される。反射で受け取って確認すると、それは500円硬貨一枚だった。
 ……つまり、これでブレンドコーヒーを買ってこい、ということか。
 ミサキがわかったと頷くと、後ろから甲高い声が張りあがった。
「櫂!てめえ、頼むにしたってもっと言い方があるだろ!」
 カムイの叫びに、櫂が鬱陶しそうに横目で見た。
「頼んだのは戸倉だ、お前にとやかく言われる筋合いはないな」
「なんだとお!ミサキさんも櫂なんかに使われてないで、嫌なら嫌って言っていいんですよ!」
「あたしも珈琲買いに行くところだったし。ついでに買うだけでしょ」
 当のミサキにまでそう言われると、流石にぐうの根も出ないようだった。
「いいから、行くよ」
 ぐっと押し込んだカムイを宥めるようにして、ミサキはそっと、小さな背を押す。


 自販機コーナーに行くまでの間、納得がいかないようにカムイは言葉を荒げていた。
「それにしたって、もっと言い方ってものがあると思います!人にものを頼むときに、「……ブレード」とか!あいつ、きっと食卓でも「……醤油」とか「……塩」とか言って全部奥さんにやらせるんですよ!」
 奥さんという言葉にはあえて突っ込まないでおいたが、まぁ、なんとなくカムイの言いたいことは分かる。確かに、櫂に『奥さん』と呼べるような存在、もしくはそういうことを気軽に言える相手がいるとするならば、食卓ではありえそうな風景だと思った。
 亭主関白というか、なんというか。
 いや、ただ単に言葉足らずだけな気もするが。
「ああいう奴なんでしょ」
「気に入りません」
「……まぁ、アンタはそうだろうね」
 ミサキが宥めようとしても、カムイはきっぱりと否定する。
 どうしたものかと考えながら、櫂から受け取った硬貨を自販機に入れた。ぱっとライトが点灯し、ボタンが光った。
「ミサキさん、“ブレード”ってこれで良いんですよね」
「ブレンド、ね。そう、その左下」
 カムイが櫂の珈琲を待っている間に、ミサキも隣の自販機で自分用のボタンを押した。カムイは不思議そうに、豆を弾くモニターを眺めていた。その姿は小学生そのもので、そんな少年とあの青年が分かりあうのは、やはり難しいかもしれないと改めて思う。たった五年程度の歳の差が、まさかこんなにもハードルが高いなんて。
 しばらくすると電子音が鳴り、紙コップに入った珈琲が出てくる。二つ受け取る前に、ミサキはお釣りで出た硬貨をカムイに渡した。カムイは目を丸くして、ミサキを見上げる。
「御礼にアイス、おごってあげる」
「まじですかっ!?」
「櫂に言ってくれたからね」
「あ……ありがとうございます! ……でもこれ、ちょっと多いですけど」
「アイチと二人分。買ってきな」
 その言葉に、ぱあっと顔を明るくしてカムイは笑顔を向けた。
「ミサキさん……!ありがとうございます!」
 こういう素直さは、彼の長所であるとつくづく思う。アイチの元へ駆け寄っていく後ろ姿を見て、櫂に足りないものはこういう部分なのだと、ミサキは人知れず思った。




「はい」
 車に戻ってきた戸倉は、珈琲と釣り銭を渡してきた。それを黙って受け取ると、彼女は櫂の隣に座り、役目を終えたとばかりに鞄から文庫本を取り出す。ずっと熱心に読んでいるそれは一体なんの本なのか。本屋のカバーがかかっていて、見ただけでは分からなかった。
 ぎゃあぎゃあと騒いでいた葛城は、まだ戻ってこないらしい。これで少しだけ静かになると、櫂はそっと息をつく。
 静かな時間だった。
 ぱらりと、本のめくる音が響くだけ。櫂は所在なく、コーヒーに口をつける。
 ――すると、思っていたよりも甘ったるい味が口に広がる。
 決してブラックのそれではない味に、思わずカップの蓋を開ける。その液体を見て、思わず眉を顰めた。
「……ミルク入れたのか」
「え?無糖じゃ……あ」
 そこまで言いかけてから、戸倉ははっと顔をあげる。
「ごめん、カムイが間違えてボタン押したのかも」
「あいつ……」
 櫂はうんざりと呟いて、米神を押さえた。戸倉も、てっきりブラックであるものと思い込んでいたらしく、本を読む手を止めて櫂のカップを見つめた。
 どうしたものかと悩んでいると、戸倉がカップを差し出してきた。
「交換してあげる。こっち、まだ飲んでないブラックだから」
「……」
 それは、至極当然のように思える。
 確かに間違えたのはカムイだが、確認しなかった戸倉の責任だ。だから、飲んでいないものを交換するというのは、確かに理に適っているようにも思う。
 ――だが、と櫂は思考をやめた。
「……これで良い」
「え、でも飲めないんでしょ。あたしミルクと砂糖、入ってても平気だし」
 行き場のなくなっていた珈琲を、戸倉はさっさと取り替える。櫂はブラックが飲めるけれど、だが、それには。
 どうしてこうなった。どこにこの思いを当てれば良いのか分からなくて、とりあえずあの小学生を睨んでやろうと心に誓う。ああ、意識する方が馬鹿らしいと解っている。解っているというのに。俺は。
 ――彼女が、自分の飲みかけに口をつける姿に、妙な罪悪感を抱くなんて!
「櫂?」
 どうかしたのかと伺う彼女は、いたって普通だ。そうだ、こんな戸惑いを抱いているのは俺だけなのだ。
 そして困り果てた末に、感情を押し隠すようにして櫂はぼそぼそと言葉を濁す。
「…………いや、別に」
 戸倉の呼びかけに、櫂は渋々、交換されたブラックに口をつけた。けっして甘くはないその味が、今となってはいやに苦い。苦すぎて、思わず顔を顰めた。
 

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